Ryohei Yamazaki

目次

(1) アントレナーシップを巡るファクトフルネス (2) 既存市場の代替 vs 新たな市場の創出 (3) スペシャリスト vs ゼネラリスト (4) 課題解決型 vs 価値提案型 (5) 先行優位性 vs 後発優位性 (6) 技術的優位性vs 技術以外の優位性 (7) 競合がいる市場 vs 競合がいない市場 (8) ソフトウェア企業 vs 非ソフトウェア企業 (9) toCサービス vs toBサービス (10) VC調達 vs ブートストラッピング - 1 (11) VC調達 vs ブートストラッピング - 2 (12) 事業進捗スピードと資金調達の関係

(1) アントレナーシップを巡るファクトフルネス

スタートアップを創業する際、どのような顧客=市場に対してソリューション/サービスを提供すべきか?この最初の、その後の成否を左右するとても重要な選択について、よく聞くセオリーというものがあります。

「自分自身がとても困っている課題をテーマにせよ」

「競争の無い市場を選べ」

「大きな市場をターゲットとしなければ成功しない」

これらの根拠がどのようなものかといえば、たいていは10年、20年前の成功事例/失敗事例から例を引いています。例えば「Mark ZuckerbergがFacebookでやったことは・・」といったような。

現在、アントレプナーシップはかつての経営学のように研究対象とされ、サイエンスとして捉えられるようになってきました。他方、いまだ実践においては孔子/孟子の時代かのごとく「かつて◯◯の王(CEO)は、◯◯の状況に直面した際、◯◯という行動をとった」といった英雄物語が教訓として多く語り継がれています。

ここで以下のような疑問が浮かびます。

疑問:同じような選択をした会社が10社あったとしたら、他9社はどうだったのか?さらに100社だったらどうか?

スタートアップやVCに関するデータを収集することが極めて困難という背景もあり、歴史研究はできてもデータに基づいた分析と仮説構築は難しいのがこの業界特有の問題でした。

そんな中、2022年に日本語版が出版された「スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件」(アリ・タマセブ著)は、2005~2018年の間に評価額10億ドル以上に達した200社以上のスタートアップを詳細に調査し、さまざま切り口からその他のスタートアップと定量的な比較を行うという内容でとても興味深いものでした。

著者はUSのVCで研究職の方ではないので、前提の置き方や定義、データの信頼性など全面的に鵜呑みにできるものでもないと思いますが、手法としては「アントレナーシップに関するファクトフルネス」を目指すものといってよい、野心的な書籍ではないかと思います。

同書から特に「市場選択」に関する箇所からトピックスを抜き出して考察していきたいと思います。